メールは、相手が誰であっても、できるだけ早く返事を出すようにしています。私の返信が相手にとって、なにかしらの手助けになればいい、と思っているからです。大切な人からのメールはもちろん、それほど親しくない人に対してもすぐに返信することを心がけています。後々どこで関わることになるかわかりませんからね。2人の子供たちにも、コンタクトしてきた人にはすぐに返事をするようにと教えています。
このように「他人のために正しい行いをする」というのは父からの教えです。「懸命に働く」というシンプルな教えとともに、私の生き方の土台になっています。子供の頃、アラバマの実家では誰もがよく働き、「後でやる」とか「怠ける」といったことは聞いたことがありませんでした。それをいま、私が2人の娘に伝えているのです。
ただ、「懸命に働く」というのは、誰もが実践できるわけではないようです。だからこそ、子供たちが勤勉に育ってくれればとてもうれしく思います。
世界には、頭脳明晰であるにもかかわらず、成功しているとは言い難い人が少なからずいます。多くの人が高いレベルの教育を受けているけれども、仕事の成果は挙げていないのです。
実際、友人の中にも勉強はできたのですが、何事もすぐにあきらめてしまう人がいます。私は、元来、それほど優秀ではなかったので、彼らよりも懸命に努力したのです。優秀だったはずの友人は、やるべきことを途中で投げ出してしまい、結果、成功を収めることができませんでした。
成功のためには何よりも「忍耐」と「ねばり強さ」が重要なのです。私は決して前に進むことをやめなかった。これだけは確かなことです。
私は、37歳でリタイアする前は、朝から晩までひたすら働いていました。移動のタクシーの中で資料を広げたりしていたものです。1日15時間働き、1分たりとも時間をムダにできないくらい忙しかったのです。
子供の頃、祖母から「仕事をやり遂げるためには忙しい人に振る」ということを教わりました。本当に忙しい人よりも、実は暇な人のほうがいつも「時間がない」と言っているものです。要するに、忙しくない人というのは怠惰で時間管理能力が低いのです。
私はリタイア直後に、このことを思い知りました。退職後の数カ月間、時間はたっぷりあったのですが、何も成し遂げることはできなかった。仕事で忙しいときのほうがよほど効率的に動けたのです。もっと時間を有効活用しなくてはいけない、と焦りました。
そこで、オートバイでの世界一周旅行に挑むことにしたのです。私は、若いとき「35歳でリタイアする」と周囲に言っていました。実際にリタイアできたのは37歳ですので、計画通りにはいかなかったことになりますが。
おかげで世界についてじっくり知ることができました。リタイアの決心は、「人生は一度きり」との思いがあったからこそです。オートバイによる世界周遊こそが、私がやりたかったことで、地球を自分の足でめぐり世界を理解したい、と思ったのです。
結局、私はお金で「自由」を買いたかったのです。会社勤めをしていたら、なかなか思うように自分のやりたいことを実現できない。私の目標は、人生でやりたいことができる「自由」を手に入れることであり、そのためにお金を稼いだのです。ですから、今でもそれ以外のことにはほとんどお金を使いません。
■夜のアイデアは一晩寝かせて決断
家族でアメリカからシンガポールに移住して数年経ちました。朝は6時に起き、2人の娘たちを学校に送っていきます。8時過ぎからエアロバイクに乗ってエクササイズを始め、同時にコンピュータを立ち上げてメールやニュースサイトなどをチェックします。複数のことを同時に処理するのが得意かどうかはわからないですが、運動しながらでも、2つか3つのことは同時にやっています。ブラックベリーでメールを送ったり、パソコンで調べものをしたり、新聞を読んだりするのです。何かしらのアイデアや、いま直面している課題の解決策などが最もひらめきやすいのは、バイクに乗っているときです。
朝は、頭が働き、心がクリアになります。何かを決断するのに最適な時間帯だと思います。目覚めたとき、寝る前にうやむやだった問題の解決策がパッと浮かぶことがよくあるのです。睡眠をしっかりとり、思いついたアイデアを「一晩寝かせる」ことはとても重要だと思います。
11時に下の娘の学校が終わるので迎えに行き、一緒にランチを食べます。午後は何かしらのミーティングに出かけたり、上の娘を迎えに行ってから、子供たち2人の習い事(テニスや水泳など)に付き添ったりしています。娘たちの送り迎えはすべて自転車です。サドルの前と後ろに子供用の小さなイスがついているんですよ。
夜は、11時ごろに寝ます。ディナーに出かけたときなどは、少し遅くなるかな。もしくはディスコに遊びに行ったときなら、夜中の2時ぐらいでしょうか。冗談ですよ、もうそんな気力はありません(笑)。
■テレビを観る人の気持ちがわからない
今でも講演などのために1年に20~30回は海外に行くのですが、飛行機の中では、睡眠をとったり、コンピュータに向かったりします。映画は観ないし、音楽も聴きません。ホテルの室内では、テレビのニュース番組をつけています。「観る」というよりは「聴く」といったほうが正しいかもしれません。私はもともとテレビを観ないのです。なぜ多くの人がテレビを観るのかがわかりません。シンガポールの家にもテレビは置いておらず、もっぱらBBC(イギリスの公共放送局)のラジオ番組を流しています。ホテルでのテレビはその代わりです。
それぞれの国では、人々の暮らしぶりを観察するようにしています。そこから「何か」を感じとるのです。例えば、日本を旅しながら私が気づいたことは「農場が少ない」「外国のクレジットカードが使えない」といったことです。街を歩いているときも、私はそこで「何が起きているのか」に気を留めます。行き交う人の洋服に注目し、いまその国でどんな流行があるのだろうか、といった具合です。ピンとひらめいたら、その洋服にかかわる会社の株式などを調べるのです。
投資家として、投資対象を調べることは不可欠です。調査を基にとことん自分の頭で考える。わからないものに対して貴重なお金を投じるべきではありません。数字や資料を読み、その会社や国のことについて徹底的に調べる。それが面倒なら投資なんてしないほうがいい。調査するうえで「情熱」はとても重要な要素です。「粘り強さ」に加えて、「情熱」がなければ成功はできないでしょう。
-----------------------------------------------------
JIM ROGERS
1942年、米国アラバマ州生まれ。イェール大学卒、オックスフォード大学ベリオールカレッジ修了。ジョージ・ソロスとともにクォンタムファンドを設立、10年間で4200%のリターンを実現。『中国の時代』など著書多数。
金澤 匠=構成
(この記事は経済総合(プレジデント)から引用させて頂きました)
au 機種変更