【衝撃事件の核心】 携帯電話の「賭博」サイトを運営していたのは-。ギャンブル専門誌の出版社「白夜書房」の子会社「白夜プラネット」(東京都豊島区)が運営する携帯電話ゲームサイト「カジパラ」で賭博が行われていたとして、今月1日、同社社長の森下幹人容疑者(40)ら3人が常習賭博容疑などで警視庁保安課に逮捕された。森下容疑者は白夜書房社長の長男。出版界の“御曹司”が危険な橋を渡った理由は何だったのか。携帯賭博サイトの実態と問題点を追った。(西尾美穂子)
■ネットでコイン、チケット…120万円の損をした利用者も
ポーカー、花札、チンチロリン、スロット、ブラックジャック…計7種類のゲームを、年齢制限なく、誰でも楽しめるようになっていた「カジパラ」。
捜査関係者によると、その実体はカジノだった。
開設された平成20年11月から同課の捜査で閉鎖されるまでの約3年間で、ゲームの会員登録者は1500人以上。計約6万回利用され、賭け金は総額約8000万円に上っていた。
利用客は最初に、サイト上でクレジットカードや電子マネーなどから「支払い方法」を選択し、1回に300円~5万円で「コイン」を購入する。そのコインを賭け金にして、コンピューター相手にゲームを行い、勝負に勝つと、換金可能な「チケット」が得られる仕組みだ。
チケットを換金すれば、サイト上で指定した銀行口座などに現金が振り込まれる。その一方で、購入したコインの料金も引き落とされるため、負けた分が勝ち分を上回れば、当然、損をすることになる。
中には計約920万円を賭け、最終的には差し引きで約120万円を損した会社員の女(49)もいた。
■“片手で気軽にギャンブル”に潜む危険
「悪いような気はしていたが、まさか摘発されるとは思っていなかった」
同課の調べに、ゲームの利用者の多くはこう話したという。
カジパラの最大の特徴は、その手軽さだ。
違法なカジノは国内でしばしば摘発されるが、ビルの地下や1室などでひっそり“開張”されているものがほとんど。参加できる“メンバー”は、会員に限られているし、暴力団関係者が関わる危険な場所であることも多い。
しかし、カジパラは、そんな怪しい場所に行かなくても、携帯電話さえあれば片手で常時、ギャンブルができる。捜査関係者は「暴力団関係者が中心となって行う賭博よりも間口が広く、依存度の高い危険なサイトだった」と警鐘を鳴らす。
NTTドコモなど携帯電話接続会社のフィルタリング対象にならない一般サイトだったため、未成年でも自分の携帯電話からアクセスすることができた。「未成年をギャンブルに誘っているという一面もあるのではないか」。ネット犯罪に詳しい甲南大学法科大学院の園田寿教授は、こう問題点を指摘する。
捜査では、実際に未成年が利用したか確認されてないが、その可能性も否定できない。
■親会社の役員も兼務 慎重論を押し切った
森下容疑者の逮捕容疑は、20年11月~23年11月ごろ、サイトで男女15人を相手に賭博したというもの。森下容疑者自身は直接、ゲームの相手になっていたわけではなく、コンピューターが自動的に相手をしていたのだが、同課は、サイトを開設・運営し、コンピューターにカネを賭けた利用者の相手をさせるという行為を「常習賭博」と認定した。
森下容疑者は、高校から大学までアメリカに留学。帰国後、白夜書房に入社した。13年に、子会社として白夜プラネット社が設立されると、携帯サイトの開発に携わり、18年には同社の社長に就任していた。
親会社の白夜書房の役員も兼ね、父親はその社長。捜査関係者によると、社長になった森下容疑者はその経営を、完全に握っていた。カジパラの開発段階で、社内では「法律に反するのではないか」などと疑問の声も上がっていたが、開発を推進する森下容疑者には逆らえなかったようだ。
■風俗店、ヤミ金、出会い系…狙いは広告収入
森下容疑者の狙い通りカジパラは、同社の主要コンテンツの一つとなったが、賭博自体で莫大な収益を上げていたわけではなかったようだ。
賭博で得た利益は、手数料もあわせて3年間で計約1000万円。利用客を相手にゲームを行うコンピューターの勝率は50%強で、確率的には利用者は大負けも、大勝ちもしないようになっていた。
収益源となったのは広告料で、こちらは3年間で3億円以上に上った。
「広告収入を伸ばすためにやっていた」
森下容疑者は同課の調べに対し、こう供述したという。
広告を出していた業者は約30社に上るが、そのほとんどは風俗店やヤミ金、出会い系サイトの広告。同課によると、森下容疑者は「風俗関係やサラ金の広告はもうかるので、そういう広告を掲載できるサイトを作りたかった」と供述したという。
ある捜査関係者は「こうした業種が暴力団関係者につながっていれば、暴力団の資金源として利用された可能性もある。賭博をしたということだけにとどまらない問題だ」と話した。
■摘発は氷山の一角?拡大する携帯カジノ
事件について、同課は親会社の白夜書房が関与した可能性は低いとみている。プラネット社は黒字を出しており、親会社の社内会議で問題視されることはなかったという。ただ、その黒字を支えた大きな要因の1つはカジパラだった。
携帯電話を利用したカジノの摘発は、カジパラで2件目だが、捜査関係者によると、同様のサイトとみられるゲームサイトは近年、増えているという。利用者が急増しているスマートフォンでも、同様の機能を持つアプリが目立つようになってきている。
園田教授は「ゲームサイトの賭博は昔ながらの賭博と違って、賭け金は少額で胴元も客も背負うリスクが小さく、さらに広がっていく可能性が高い。早期の対策が必要」と指摘した。
(この記事は社会(産経新聞)から引用させて頂きました)
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