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2012-03-04(Sun)

「漂流ハケン社員」給料ダウン、結婚絶望、夢は……[後編]



■「派遣の分際で」と見下す女性社員



 厚生労働省が09年に発表した「平成20年派遣労働者実態調査」によると、派遣労働者が就業している事業所の割合は13.8%。これを事業所規模別に見ると、1000人以上の事業所では93.3%と、企業の規模が大きいほど派遣社員の労働力に依存していることが明らかになっている。

 派遣労働者を就業させる主な理由で最も多いのは「欠員補充等必要な人員を迅速に確保できるため」(70.7%)。次いで、「一時的・季節的な業務量の変動に対処するため」(35.1%)という理由が続く。まさに派遣社員の労働力が「雇用の調整弁」として見なされていることが浮き彫りとなっている。



 前述の中村さんは、大手飲料メーカーで派遣社員として働いた経験がある。

「自分が絶対に入社できそうにない大企業に行けるというのは、派遣のメリットの一つ。そこで大きな仕事を経験できたり、いろんな人と知り合えたことは、私にとってプラスとなりました」

 そう語る中村さんだが、いいことばかりでもない。正社員と同じ仕事をしても、給料面では歴然とした差があるからだ。

「部長さんが体育会系のノリで、『僕は社員も派遣社員も一緒だと思ってるから』とおっしゃって、同じ仕事を任されていました。その気持ちはうれしいのですが、給料があまりにも違いすぎます」

 本当はもっといろんな仕事がしたい、もっと能力が発揮できると思っているが、つい自分でセーブしてしまう中村さん。

「これを私がやってしまうと、自分が大変になるだけだし、給料にも見合わない」と考えてしまい、自己嫌悪に陥るという。



 藤田さんも同じような経験がある。

「会社に総務関係のソフトが導入されたとき、なぜか私に『全国に出張して各担当者に使い方を説明してきて』と言われました。そんなことをいきなり言われても困るし、かといって断ることもできず、いやいや行きましたけど……」

 新入社員に手取り足取り仕事を教えるのは日常茶飯事。こちらが指示される立場のはずなのに、逆に正社員に教えなくてはならないことにストレスを感じる。またあるときは、顧客からのクレーム対応の矢面に立たされたこともあった。

「確かに電話を取るのは派遣の業務の一つですが、本来ならクレーム処理は正社員の仕事ですよね?」

 と話す中村さんは、大手飲料メーカーを辞めるとき、同僚の一人に「え、派遣さんだったの? 今まで知らなかった!」と驚かれたという。



 また、自分が頑張れば頑張るほど、正社員の存在が気になり始める。彼らと同じかそれ以上の仕事をしている自負はあるのに、そこには歴然とした格差が横たわっている。中村さんは言う。

「派遣はやっぱり立場が下なんですよね。例えば長く仕事をしていると、ここを改善したらいいのにと思うことが出てきます。でも、それを言える立場にないんです。言ったら言ったで『派遣は言われたことさえやればいい』と言い返されたり。その兼ね合いがすごく難しい」

 また、中村さんは派遣社員への敵意をむき出しにした女性社員にも遭遇した。

「大きな会社では、『派遣の分際で』って口もきいてくれない女性社員の方もいらっしゃいましたね。自分たちの社内での立場が、優秀な派遣に脅かされるんじゃないかという気持ちもわからないでもないのですが、こちらの仕事へのモチベーションは確実に下がります」



 そして一番寂しさを感じるのはボーナスの時期。同じ職場で同じ仕事をこなしていても、派遣社員にボーナスは出ない。

「クレジットカードのボーナス一括払いもできません。ボーナスがなくても平気だと思えるくらいのお給料をもらっていた時期もありましたが、時給が下がった今ではそんなこともありません」

 そんな中村さんや派遣社員の気持ちを察してか、ボーナス時期に「ランチに連れていってあげる!」と誘ってくれる上司もいるという。

「でも、毎回それがかえって苦痛だったりもするんですよね……」

 派遣社員は気苦労が絶えないようだ。





■頭のなかをよぎる生涯独身の寂しさ



 派遣社員のデメリットにばかり目がいきがちだが、もちろんいいところもある。藤田さんは、働きたいときにすぐ働ける点を挙げる。

「派遣会社に登録して希望を伝えれば、自分に合った仕事を探してくれます。正社員になるよりずっと手軽。これが私にとって一番のメリットです」

 正社員を希望する場合、求人情報を探して履歴書を書き、書類選考に通過したら面接を受けて……、とすべて一から自分でやらなくてはならない。派遣であれば、時給や仕事内容などの条件面についても、派遣会社の担当者に相談できる。



 2年前に結婚し、派遣社員として働く31歳の女性、松川裕子さん(仮名)も、派遣会社経由で働くことに魅力を感じる一人だ。

「派遣社員は就業時間や仕事の内容など、ちゃんとした取り決めがあったうえで就業しているので安心です。もし派遣先で条件と違うことがあれば、すぐに担当さんに話して対処してもらえます」

 松川さんは美容師を目指していたものの、体調を崩してしまい、その夢を断念せざるをえなくなった。

「知人の紹介で編集プロダクションでアルバイトをさせてもらっていたのですが、そこの派遣さんに『アルバイトより派遣のほうが時給がいいよ』と言われ、派遣で働くことに決めました」



 31歳という年齢を考えると、「正社員になるなら今しかない?」と思い悩むこともある。しかし、妊娠したら会社を辞めてしまうことになるかもしれない。

「私は結婚していて家庭のこともあるから、残業がほとんどなくて、拘束時間がきちんと決まっている派遣のほうが合っているんだと思います」(松川さん)

 働く女性にとって結婚や出産、子育てと仕事の両立は大きな課題だ。採用する側もおのずと敏感になってしまう。松川さんは言う。

「正社員の採用試験では、結婚しているだけで、面接で必ず『子どもはどうするんですか?』と聞かれます。『どうせ辞めちゃうんでしょ?』という感じで」



 出産して子育てする権利は法律で定められている。たとえ派遣社員でも、一定の条件を満たせば、産休や育休も取得できる。しかし、実際のところ妊娠したら退職する人が大半だ。

「私の周りで産休を取った派遣なんて聞いたことがないし、もし取ったとしても、次の人をすぐに雇うでしょうから、同じ職場には戻れないかもしれません」

 派遣という働き方に満足している松川さんだが、産休については少し不安そうな表情を浮かべる。



「働きたいときに働けるのがメリット」と語った藤田さんも、じわじわと年齢の壁を感じつつある。

 労働者派遣法では派遣先が契約前に面接を行ったり、年齢や性別を指定することを禁じている。しかし、実際は形骸化しており、「打ち合わせ」と称した面接が横行している。

「本当は聞いちゃいけないはずなのに、『差し支えなければ年齢を教えていただけますか?』って聞かれます。そりゃ差し支えありますって……」

 正直に38歳であることを告げた藤田さんだったが、あまりいい気はしなかったという。同じく38歳の中村さんも似たような経験がある。

「それなりに経験を積んでいる人を求める企業もあるので、まだ30代後半だとニーズもあるようです。ただ、40代になっても今と同じように採用してもらえるか、といえば不安になりますね」

 年齢の壁は男性にも立ちはだかる。前述の坂本氏の知人は都内で仕事が見つからず、現在は妻子を東京に残して名古屋に単身赴任中だという。

「正社員ではないので、当然、単身用の住まいは自己負担です」(坂本氏)



 派遣で働き始めた頃は時給がよく、融通のきく、自由な働き方に満足していた。やがて40代に近づくにつれ、派遣社員たちは不安に苛まれていく──。

「今、どうしたらいいかわからないというのが正直なところ。派遣先で中途採用の選考をしているのですが、やっぱり年齢から見ているんですよね。よくて30代前半までで、それ以降はもうだめ。そういうのを見ていると、もし私が正社員を希望しても面接にすらたどり着けないんだろうな、って思いますね」(藤田さん)

 一方、中村さんは紹介予定派遣を希望したことがある。これは、一定期間派遣社員として働き、期間内に派遣先企業と本人が合意すれば、派遣先企業で直接雇用されるという制度だ。

「履歴書と職務経歴書を提出したのですが、即座にノーという返事がきました。本当の理由はわかりませんが、おそらく年齢のこともあるようです。私は短大卒で学歴もあまりよくないですし」



 それでも、仕事の幅を広げるための努力は惜しまない。現在、藤田さんは証券外務員の資格取得を目指している。

「今の派遣先が証券会社で、会社が『費用を出すから受けてみたら?』と言ってくださったので、頑張って勉強しているところです」

 中村さんは、医療事務の資格取得を検討し始めた。

「派遣の友人がこの資格を取って調剤薬局で働いているんです。結構お給料がいいみたいなので、彼女に詳しい話を聞いてみようかなと思って」



 現在独身である二人は、縁があれば結婚したいと考えている。

「もちろん結婚して出産したいと思っていますが、もしそうなったとしても継続して働ける場所は確保しておきたい。でも最近になって、一生このまま一人でいることも考えなきゃいけないのかなという気持ちになってきました」

 と中村さんの心は揺れ動いており、明確な答えを出せずにいる。





[了]





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吉川明子=文





(この記事は経済総合(プレジデント)から引用させて頂きました)



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矢口 倫子
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