ビジネスパーソン研究FILE Vol.158
日本中央競馬会(JRA) 松澤慶さん
■平常業務と開催業務の二足のわらじ。緊張感の大きい開催業務には出張ならではの楽しみも
「競走馬が走るときの足音、目の前を疾走する馬の迫力、会場に集約される観客のエネルギーと歓声に、すごく興奮しました」
初めて競馬場を訪れたときの感動をこう語る松澤さんは、2001年以来、変化に富んだ競馬運営にかかわる業務を担当しながら日本全国を飛び回っている。
「JRAがユニークなのは、水・木・金曜の“平常業務”と土・日曜の“開催業務”という2つの仕事を誰もが担当すること。それを知ったときは『自分に合っているかも』と思いました。いろんな場所でいろんな刺激を受ける方が、常に新鮮な気持ちで仕事に臨め、より多くを経験することで“人として”成長できますから」
最初の配属は、滋賀県にある馬の調教施設、栗東(りっとう)トレーニング・センターの警備課。このセンターでは、公正の確保の観点から、関係者以外の立ち入りは厳しく管理されている。松澤さんは、騎手や調教師の各種手続き、ガードマンの管理や消防訓練の実施などの業務を担当した。ここで働くのは、調教師や馬の世話をする厩務員(きゅうむいん)、騎手や獣医など。そこで、松澤さんはセンター内の巡回に多くの時間を費やし、彼らと対話しながら懸案事項をヒアリングするなど、コミュニケーションを大切にした。
そして、週末の開催日は、阪神競馬場や京都競馬場、関西地区のウインズ(場外発売所)などで、お客さまの案内・誘導、各種問い合わせへの対応に当たった。
「当日動員される100名近いガードマンやアルバイトの打ち合わせを担当するなど、警備全体の管理を行っていました。競馬場やウインズには、一日に何万人ものお客さまが来場するので、事故のないよう誘導することが最優先。開門時と退場時には、スタッフ同士が手をつないで規制・誘導を行うんです。正直、最初はお客さまの気迫や熱気に圧倒されました。開催業務は、平常業務にはない緊張感がありますし、開門から馬券購入まですべてが時間との闘い。開催業務に就くようになって、時間の狂わない電波時計が必需品になりました」
開催日でホッと安堵できるのは、お客さまが帰路につき、無事に一日を終えた夕方だ。
「開催日は常に緊張感を保たなければならないため、夕方にはヘトヘト。夜はぐっすり眠れます(笑)」
一方で、開催日ならではの楽しみもある。全国各地にある競馬場やウインズに出張することも多いので、地方グルメにかなり詳しくなった。
「開催業務の緊張感と終了後のリフレッシュ、僕はこのメリハリが好きなんです。開催業務については、月毎に執務編成が変わるんですが、その編成表を見て、次は誰とどのお店に行こうかと考えるのが、一つの楽しみになっています(笑)」
■WIN5とJRAダイレクトの導入経験を通して、新しい仕組みを作る手ごたえを実感
2007年に異動となった阪神競馬場お客様事業課では、ガードマンやアルバイトの労務管理を担当した。このころに学んだのが、大勢のスタッフの心を掌握する大切さ。お客さまと競馬場スタッフ、ときには競馬場スタッフと出張職員との間に発生するさまざまな問題を解決するなど、潤滑油的な役割を果たした。
「例えば、お客さまへの対応。最初は窓口スタッフが対応し、より詳しい説明を求められる場合は職員である私が対応します。その際に配慮したのが、初動対応者と私の対応が違ったときの、初動対応者への接し方でした。初動対応するスタッフは、私より年長で知識も経験も豊富な方も多い。彼らの経験に基づいて『ノー』と対応したのに、後から状況を聞いた私が『イエス』と判断することもあります。優先されるのは当然『お客さまにとってどうか』ですが、私の対応でスタッフのモチベーションが下がってはいけない。ですから、普段からスタッフと真摯に向き合うこと、『僕が相手の立場だったらどう感じるか』を考えて彼らの言い分を受け止め、納得できるよう説明することを心がけました」
現在所属している経営企画室のミッションは、収益アップとコスト削減を考えながら、JRA全体の施策や方針を決定すること。松澤さんは、JRAを管轄する農林水産省をはじめ、地方競馬や他種公営競技との調整役を担っている。2009年の異動直後から2011年の導入開始に向けて取り組んできたのが、新しい馬券「WIN5(ウインファイブ※)」と、クレジットカードで馬券を購入できる「JRAダイレクト」だ。
「新しいスキームを理解してもらうために、わかりやすく図式化した企画書を作成したり、手数料設定などの調整、導入に向けてのプロモーションなどに携わりました。WIN5は、配当が2億円にもなる宝くじ感覚の馬券。1日3億円程度の売り上げを見込んでいましたが、実際は1日平均10億円程度と好調です。今までにない仕組みをつくる苦労はありましたが、初めての経験に大きな手ごたえを感じることができました」
また、イギリスを発祥とする競馬は現在多くの国で開催されており、新規策の導入にあたっては海外での先行事例を参考にすることも多い。WIN5の導入に際しては、そうした海外での発売方法なども検証した。こうしたことから、JRAには幾つかの海外研修制度がある。松澤さんは「少しでも日本競馬の発展に寄与するものを見出していきたい」と応募。小論文や面接などの社内選考を経て、2012年度の研修生に選出された。現在は、海外研修に向け、語学力の向上が目標とのこと。
このほかにも、松澤さんは競馬に関する意識調査の報告書作成を担当。この調査を通して、競馬をやってみたいが始めるきっかけをつかめていない潜在層がかなりいることを知った。
「友達に連れて行ってもらうなどのきっかけがないと、一生競馬を経験しない人もいます。でも一度経験すると違う世界が広がります。馬が走る姿の美しさ、馬という生き物への愛着やロマン、たくさんの人が同じ興奮を共有する独特のエネルギー、手に汗を握って最後の直線を応援する興奮など、競馬の魅力は人それぞれ。もちろん、馬券が当たる興奮も魅力です(笑)。将来は、こうした競馬の魅力をダイレクトに伝えることができるサービス・広報などの業務に就いて、1人でも多くの新しいファンを獲得していきたいと思っています」
※指定された5つのレースすべての1着馬を当てる馬券
(この記事は社会(就職ジャーナル)から引用させて頂きました)
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