開発陣に聞く「HONEY BEE 101K」:
ソフトバンクモバイルが1月27日に発売した、京セラ製の「HONEY BEE 101K」は、そのデザインやユーザーインタフェース(UI)、ボディカラーのバリエーションなど、主に女子高生を強く意識したAndroidスマートフォンだ。
【他の画像】
HONEY BEEといえば、カラフルでポップなデザインのPHSとしておなじみの端末。初代の「HONEY BEE(WX331K)」は2008年2月に発売され、同年11月にはカメラが搭載された2代目の「HONEY BEE 2(WX331KC)」が登場した。
約1年後の2009年11月に発売された3代目の「HONEY BEE 3(WX333K)」は、アウトカメラとインカメラに35万画素のCMOSを備えて“自分撮り”も重視したモデル。また2010年2月には、初の折りたたみ型でイルミネーション機能にもこだわった「HONEY BEE BOX」がラインアップに加わっている。そして、最新機種の「HONEY BEE 4」(2010年12月発売)は、動画撮影やFlashコンテンツにも対応し、さらにウィルコムの『だれとでも定額』が使えるPHSとして、現在も人気を博している。
HONEY BEEシリーズにはこのほかにも、限定モデルや派生モデルがいくつかある。そしてそれらはすべて、“通話専用の2台目3台目ケータイ”というウィルコムの戦略に沿ったものでもあった。
フィーチャーフォンで人気だったブランドがスマートフォンで復活・復刻する潮流が続いているが、果たしてHONEY BEEもそうなのだろうか? HONEY BEE 101Kの開発を担当した、京セラ通信機器関連事業本部国内第2マーケティング部商品企画課の横田希氏と、同マーケティング部デザインセンターの漆畑睦氏、佐藤孝幸氏に、開発経緯を聞いた。
●「かわいいスマホがない」という不満
前置きが長くなったが、HONEY BEEといえばかわいいデザインの通話専用ケータイというイメージが強い。高機能携帯電話とも呼ばれるスマートフォンからは、ちょっと距離がある位置付けの製品だ。横田氏はHONEY BEEをスマートフォンにした理由について、「ユーザーからの『スマートフォンを使ってみたい』という後押しが大きかった」と話す。
「HONEY BEEの開発経緯から、我々はユーザー層である女子高生を中心にニーズの聞き取り調査を行っています。以前はあまりスマホへの興味を感じませんでしたが、ここ1年くらい前から、“タッチ操作するケータイ”への興味が大きくなってきました。急激な普及で目にする機会も増え、女子高生層にもスマホの存在が浸透していったようです」(横田氏)
先輩やまわりの大人たちが“タッチ操作のケータイ”に機種変していくなか、流行に敏感な彼女たちが街に溢れるスマホに興味を持たないわけはない。しかし、自分たちのケータイをスマホに変えるまでには至らなかった。その理由はかなり明快だ。
「先ほどの調査の一環で、他社の人気機種などいろいろなスマートフォンを試してもらうと、『おじさんっぽい』『かわいくない』ということで、持ちたいと思わないという結果が多くなりました。決して、デザインが悪いとか、かっこわるいではない。かわいくないので、“自分たちの持ち物”には見えないようです」(横田氏)
スマホが普及してきたとはいえ、まだまだ一部の人たちの物というイメージがあるのは否めない。スマホの多くは、SF映画に出てくる小道具のような先進的なデザインであったり、シンプルさを強調するためディティールがミニマムだったりする。早くからスマホに興味を持ったギーク層や、PCに近い処理能力を求めたビジネス層への受けは良いが、若い女性層が敬遠するのももちろんだ。では、どんなデザインならば良いのだろうか。
「それはもう、『かわいい』ことです。かわいい、カワイイ、Kawaii……同じ言葉でも言い方でニュアンスが変わるようですが、とにかくかわいくないと持ちたくない。それなら、かわいいことで定評のある『HONEY BEE』をスマホにしよう――というのが、開発のスタートです」(横田氏)
●画面の中も思い切り「HONEY BEE」
HONEY BEEをスマートフォン化するにあたり、デザインとともに重要になったのが端末のサイズだ。HONEY BEE 101Kは約3.5インチのワイドVGA(480×800ピクセル)タッチパネルを採用しており、ボディの幅は約56ミリとかなり細い。これは片手操作にこだわったためだという。
「フィーチャーフォンからの乗り換えを想定すると、片手で操作できることが極めて重要です。スマートフォンのディスプレイは4インチ以上のものが主流になっていますが、これでは女子高生の手には大きい。あくまで、片手操作にこだわったサイズにしています」(横田氏)
もちろん、女子高生でもディスプレイは大きい方が良いだろうが、もてあますようなサイズになっては“ケータイ”の意味が無い。操作を重視しつつ、スマートフォンとして十分な情報を表示できるタッチパネルのサイズが選ばれた。そして、ただ小さくするだけでなく、片手でも快適に操作できるよう、さまざまなインタフェースが工夫されている。まずひと目で分かるのが、ハードキーの数だ。ハードウェアのデザインを担当した漆畑氏は、次のように説明する。
「タッチパネルでの操作が当たり前になったスマートフォンですが、フィーチャーフォンを使いこなしていた層からは、操作がかえって手間になったという声がありました。特に女子高生などは、画面も見ずにダイヤルキーの押す場所と回数でケータイを操作する。そのままのAndroidでは難しいことですが、ハードキーを増やすことでその操作性に少しでも近づけたいと思いました」(漆畑氏)
最近はホームキーや戻るキー、メニューキーがセンサー式になったモデルも多いが、HONEY BEEではそれぞれのアイコンを模したハードキーを採用。さらに、発話キーとメールキーも追加し、ボディのサイドにも電源とボリュームキーに加え、カメラキーと好きなアプリを割り当てできるカスタマイズキーを備えた。フルタッチパネル操作のスマートフォンとしては、最多と言える数のハードキーを備えている。
「これらのキーも、それぞれひと工夫しています。正面側のキーは形がすべて違いますし、サイドも機能ごとのアイコンを再現しています。使いやすさはもちろん、かわいらしさも追求しました。これらのハードキーがタッチパネルでの操作を手助けすることで、もっとコミュニケーションが便利になります」(漆畑氏)
そのタッチパネル側のUIも、普通のAndroidスマートフォンとはかなり違っている。画面下に設定や機能ごとのボタンが並び、画面にはHONEY BEEのハチのキャラクターが飛び交っている。ホーム画面だけ見ていると、Androidスマートフォンとは気が付かないほどだ。UIを担当した佐藤氏は、「いかにHONEY BEEの世界観を貫くか」に苦心したと振り返る。
「これまでのHONEY BEEの評判は、とにかく『カワイイ』という声に集約されています。スマートフォンでも、こうした声に応えなくてはいけません。そこで、ホーム画面はもちろん、設定メニューまでもカスタマイズして、Androidであることを意識しないようにしています」(佐藤氏)
例えば、“ハチが踊るライブ壁紙”は開発時の最低限の要望だったという。また、アラームや赤外線通信などのアクセサリー的な機能にも、ハチのキャラクターが登場しその世界観を守っている。こうしたデザイン重視のスマホには、オリジナルのアプリがたくさんプリインストールされることが多いが、HONEY BEE 101Kでは「京セラオリジナルのアプリだけではなく、OSやGoogleの基本アプリのグラフィックテイストにも手を入れた」(佐藤氏)という。
例えば、メニュー画面や設定画面の背景にもハチの巣を表現した八角形の模様があり、HONEY BEEの世界観を踏襲している。こうしたカスタマイズは「買って初めて電源を入れたときから、HONEY BEEの世界観から外れないように」(佐藤氏)という配慮のもと施されている。さらに、ソフトバンクモバイルが提供する「S!メール」アプリも、HONEY BEE仕様にカスタマイズされた。
またUIだけでなく、バッテリーもHONEY BEEのデザインを採用。個装箱も、キャリアが定めたものではなく、HONEY BEEのためにデザインされたオリジナルのものを用意する。販売時の開け方なども従来機種と違ってくるため、販売店の協力も不可欠だ。メールアプリのカスタマイズを含め、1社の1端末のためにキャリアがここまでするのは異例中の異例といえるだろう。
「いろいろ工夫していますが、コンセプトはHONEY BEEの世界観をいかに踏襲してスマートフォンに置き換えるのかということ。また、ただAndroidにするだけでなく、オープンOSゆえの高い自由度や表現力をどう生かすのか、という点に力を入れました。使えば使うほど、さまざまな表情を見せるUIに仕上がったと思います。社内はもちろん、キャリアにもこの点を十分理解してもらい、いろいろ協力してもらいました」(横田氏)
●スペックも個性的
ソフトバンクモバイルのAndroidスマートフォンは、この冬春モデルでバリエーションが一気に増え、選択肢が広がっている。もちろん、その中でHONEY BEE 101Kがもっともデザインが個性的だが、下り最大21Mbpsの高速通信サービス「ULTRA SPEED」に対応するなど、機能面でもかなりハイスペックだ。
「想定ユーザー層の女子高生たちはかなり忙しい生活を送っています。メールのコミュニケーションはほぼリアルタイムですし、動画サイトなどリッチメディアの利用頻度も高い。そのため、通信機能は高スペックである必要がありました」(横田氏)
スマートフォンなら重たいデータはWi-Fiで――と提案したいところだが、これにも想定ユーザー層特有の課題があった。女子高生はまだ学生のため、自宅で無線LANが使えるかどうかは保護者次第という面がある。キャリアが提供する公衆無線LANも、生活圏内のすべての場所で使えるわけではない。必然的に、3G通信への依存度が高くなったという。
また約515万画素CMOSを採用したアウトカメラに加え、インカメラにも約200万画素と高解像度のCMOSを採用した。もはや説明不要だと思うが、これは自分撮りを考慮したため。ちなみにPHSのHONEY BEE 3は、アウトカメラもインカメラも同じ画素数(約35万画素)という構成だ。
一方、ユーザー属性から搭載されない機能もある。例えばおサイフケータイは「クレジットカードを持つ女子高生が少ない」(横田氏)ため、搭載が見送られた。もちろん、クレジット契約がいらないおサイフサービスもあるが、なくても気にしないという。そしてワンセグも、「彼女たちはあまりテレビを見ない」(横田氏)ため、搭載されなかった。視聴時間が拘束されるテレビよりも、動画共有サービスなどの利用頻度が高く、仲間内の話題になりやすいという。またバッテリーについても、むやみに大容量化して連続待受時間を長くすることはしなかった。
「これはフィーチャーフォンでもいえることですが、ケータイをヘビーに使う女子高生になると、逆にあまり連続待受時間を気にしません。バッテリーがなくなったら、どこかで充電して過ごします。そのため、彼女たちは充電器を常に持ち歩いている。もちろんバッテリーは長く使えた方がよいのでしょうが、使い方を工夫してその問題をクリアーしてしまう。そのため、電池の持ちに対する優先度は低いようです」(横田氏)
ユーザー層がどのようにケータイを使い、どのような製品を期待しているのか。それをこと細かに分析しないと、こうしたメリハリのあるスペックにはならなかっただろう。先に紹介したボディやUIのデザインも含め、開発陣は常に「女子高生の1日」を意識しながら企画を進めたと振り返る。
「みんなで集まって『これはカワイイ、カワイクない』という会議を何度も行いました。検討して出てきたアイデアに対し、社内からも『これはカワイイ、カワイクない』というリアクションが返ってきた。京セラのスタッフはみんなHONEY BEEのファンなので、みんなでイメージを共有して開発した端末です」(佐藤氏)
●「HONEY BEE」スマホ1号機としての存在感
さて、京セラといえばKDDIやウィルコムへの端末供給が多く、ソフトバンクモバイル向けにはこのHONEY BEE 101Kが第1号機。なぜ、HONEY BEEの原点ともいえるウィルコムや関係の強いKDDIではなく、ソフトバンクモバイルから登場したのだろうか。
横田氏は、「ウィルコム様は『だれとでも定額』など音声通話にフィーチャーしたサービスと端末がメインのビジネスモデル。こちらでは、今後もPHSのHONEY BEEが引き続き位置付けられます。またKDDI様向けには、ユーザー層がより広くWiMAXにも対応した『DIGNO ISW11K』がある。HONEY BEEの世界観を思い切り表現したスマホに関しては、ソフトバンクモバイル様が高い興味を示してくれました」と、同社から発売された経緯を明かしてくれた。
ちなみに、かつて京セラはドコモにも音声端末を供給し、現在もFOMAの通信モジュールを担当している。W-CDMA対応スマートフォンの国内投入はHONEY BEE 101Kが初めてだが、横田氏は「(2008年に事業承継・統合した)旧三洋電機のノウハウもあり、まったく問題なかった」と、通信規格の違いによる不安はないことを強調した。
2008年2月の初代HONEY BEE発売から丸4年。HONEY BEEはスマートフォンになってさらにユーザー層を拡大しようとしている。HONEY BEEというPHSの一大ブランドがスマートフォンになった101K。その世界観を崩さないため、京セラ社内はもちろん、ソフトバンクモバイルというキャリアも一体となった異例の取り組みが続いた。日本初のケータイ業界でここまで愛されているブランドは、ほかに例を見ないのではないだろうか。
[平賀洋一,ITmedia]
(この記事はモバイル(+D Mobile)から引用させて頂きました)
au 機種変更